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居住用財産売却時の3000万円特別控除を上手に使うには

2012.09.20

あるお客様よりご相談がありました。

「夫も亡くなり私一人になったことだし、この際老人ホームに入所することにしました。でも、もしかしたらまた戻ってくるかもしれないので自宅はこのまま残して貸家として賃貸に出すつもりです。構いませんよね?」

自宅を売ろうが貸そうが空家のままにしておこうが、それは所有者の自由ですから勿論構いません。

 

ただ、税務上の話はまた別です。

 

老人ホーム入所中にこの方がお亡くなりになった場合、元自宅が空家ではなく貸家となっていれば、建物は3割評価減、敷地は概ね2割前後の評価減となり、空家に比べて間違いなく相続税の節税につながります。相続税課税の可能性のある方であれば、税務上は貸家の方が有利です。(小規模宅地等の評価減の特例の適用如何では空家の方が有利になるケースもあります)。

 

では、生前に売却した場合の税金はどのようになるのでしょうか?

不動産を売却した場合、通常は譲渡税がかかります。

売却金額から取得費(この不動産を購入したときの費用など)及び売却経費(測量費や不動産会社へ支払う仲介料など)を差引いた金額がいわば儲けとみなされ、所有期間5年以上であれば20%(所得税15%、住民税5%)が課税されます。しかし、相続で引継いだ先祖代々の土地の取得費は、先祖が1番最初に取得したときの費用を指しますから、ほとんど不明です。

また、自分自身で購入したものであってもそれが数十年も前であったりすると、その時の取得費を証明するものが何も残っていないケースがほとんどです。このように取得費が不明な場合は、概算取得費の特例を使って売却金額の5%を取得費として確定申告をするケースが殆どです。

つまり、売却経費を考慮しなければ売却金額の95%が儲けとなり、それに対して20%課税されるのです。売却金額5,000万円なら儲けは4,750万円(5,000万円×95%)、譲渡税は950万円(4,750万円×20%)にもなってしまいます。

 

しかし、マイホームの売却の場合は、税金を大幅に安くしてくれる特例が幾つかあります。その代表格が3,000万円特別控除と呼ばれるもので、売却金額から取得費及び経費を差引いた残りの金額から更に3,000万円を差引いてくれるというものです。従って、この特例が使えれば、地価が極端に高い都市圏を除けば、ほとんどのマイホーム売却で税金は実質ゼロかそれに近い低額となります。

 

では、税務上の「マイホーム」とは何でしょうか。国税庁の通達では、「その者が生活の拠点として利用している家屋」と定めています。生活の拠点か否かの判断は、住民票上の住所で判断されるのではありませんから、住民票を残しておいても無意味です。大事なのはあくまでも実態です。

そうなると、前記相談者のように生前に老人ホームへ引っ越ししてしまった場合は、生活の拠点がそこで移ったことになりますから、元自宅がその後空家になろうが貸家になろうが『もはやマイホームではない』ということに変わりはありません。従って、将来売却しても3,000万円特別控除は使えません。

 

何か救いの手はないのか?

ありました。同じく国税庁の通達に「居住しなくなってから3年経過後の12月31日までの間に譲渡した場合には3,000万円特別控除を使える」と書いてあるのです。しかも、その間の建物の用途は問われません。3年間空家のままでもいいし、貸家として第三者に賃貸していてもいいし、子供や親戚にタダで使わせてもいいのです。

(ただし、老人ホームへの入所が身体又は精神上の理由により介護を受ける必要があるためであり、いつでも戻れるように自宅が維持管理されていたような場合は、ホームの入所期間の長短を問わず自宅を自宅として認めてもらえる可能性があります。)

 

よって、前記相談者への回答はこうなります。

「老人ホーム入所後に自宅を第三者に賃貸するのは一向に構いません。しかし、いずれにしてもご自分の生前に売却することをお考えであれば、自宅を出てから3年経過後の年末までに売却した方が譲渡税は確実に安くなります。税務上だけから言えば、売りどきはそのときまでです。その点は是非頭に入れておいてください。」

 

注意すべきは、この3,000万円特別控除が使えるのは自宅建物を売却した場合であって、自宅建物と共にその敷地を売却した場合に限っては敷地もあわせて3,000万円控除が使えるということです。従って、自宅建物が例えば夫単独名義であれば夫しか3,000万円控除は使えませんが、夫婦2人の名義になっていれば夫婦それぞれが3,000万円控除の適用を受けられます。

つまり、2人あわせて6,000万円控除です。将来の自宅売却を念頭に置く夫婦であれば、今のうちに夫から妻へ建物持分をいくらか贈与しておく、という対策が成り立ちます。婚姻期間20年以上の夫婦の場合なら、贈与税の配偶者控除を使えば2,000万円まで無税で贈与可能ですから、そのようなものを上手に利用するといいでしょう。

 

なお、自宅売却を容易にするために、建物を取り壊して更地として売りに出す場合も実務上は結構あります。この場合、3,000万円特別控除が使えるのは取り壊し後1年以内の売却のみです。それを超えてからの売却や、また1年以内であってもその間に別の用途(例えば月極駐車場など)に使ってしまってからの売却には3,000万円控除は利用できません。つまり、そういうのはもうマイホームの売却とはみなさないよ、ということです。

 

たかが自宅売却と侮るなかれ!知っているのと知らないのとでは、手取り金額に大きな差ができる場合があります。ご用心。

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筆者紹介

江頭 寛
福岡相続サポートセンター
代表取締役社長

生前対策から相続発生後の申告・納税に至るまで、皆様から寄せられる無料相談への対応や、希望する幸せな相続の実現に向けての対策立案と実行支援を、弁護士・税理士・司法書士・不動産鑑定士等の先生方をコーディネートしながら日々やらせて頂いてます。お客様にとってベストな相続並びに資産の有効活用を徹底的にサポートすることが私の最大の使命です。また、相続対策セミナーも全国各地で積極的に開催中。まずはお気軽にご相談ください。

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